休憩なしの100分。
サイコパスな二人の青年と、たった一台のピアノで繰り広げられる緊迫した時間。
今回、役者とピアニストは3組あったが、木村達成(私役)×前田公輝(彼役)、ピアニストは落合崇史で鑑賞。
ほかの組もぜひ見たかったのだが、スケジュールの都合上、この組のみの鑑賞となった。
観劇メモ
会場や観劇をした日など。
演目名
ミュージカル『スリル・ミー』
会場
東京芸術劇場シアターウエスト
観劇日
2023/9/23(Sat) マチネ
アンバランスの魅力
前回スリル・ミーを見たのは、2021年4月で、それが初回だった。
日本では、2011年に初演されており、その後も何回か再演が繰り返されていたのに、なぜ2021年になるまで見てなかったんだろう!と悔やまれた作品。
ちなみに前回の2021年は、田代万里生×新納慎也で観劇している。
この作品の魅力は、随所にみられる「アンバランス」にあるような気がする。
知能指数が高いが、ところどころ幼稚さが垣間見える二人の青年、「私」と「彼」の思いのバランスの悪さ、そんなところが「息もつかせぬ」というコピーを生むゆえんだろう。
今回、木村達成がキャスティングされたとき、てっきり「彼」役で出るのだと思った。
あのクールなルックスなら、あの傲慢な若造がきっとピッタリなはず、と勝手に思っていた・・・が、よく見ると木村達成は「私」役だった。
「私」は、最初は53才のくたびれた囚人として登場してくる。(19歳で逮捕されて34年牢の中にいるというだから、19+34=53だろう)
そこから十代の時の思い出を語り始めるのだ。
木村達成の「私」は、みすぼらしい囚人ではあったが、それほど年老いた感じでもなく、言葉は明瞭、そして恐らくは知能もそのまま、正気9割、といった感じだった。
青年時代の「私」は、大人びたクールな容姿に似合わない落ち着きのなさ、精神の不安定さに、ものすごいアンバランスを感じ、そして「彼」からほんの少し情をかけてもらった時の、何とも言えない恍惚の表情にもギャップを感じた。
そして今回、前田公輝が初見。
おそらく舞台上で一度もニヤリとも笑わなかったんじゃないだろうか?
いかにも上級国民の子息といったいでたちに、ゾワゾワきた。
ニーチェがどうのこうのとか、俺は超人なんだ、と言い放ち、一見高慢かつ知的にも見えつつ、なんだか青臭さのようなものを感じさせるところ、も、絶妙。
ただ、歌はあまり得意じゃないようで、その点が少し残念。
シンプルな演出だからこそ
舞台上にはピアノ1台、俳優2人。
装置もシンプルで、同じ装置をそれぞれの部屋に見立てたり、倉庫になったり、牢屋になったり。
照明もテクニカルに過剰になることなくシンプル。
ムーラン・ルージュのような、キラキラした舞台美術も好きだけれど、こういうシンプルなのはまた全然違っていて良い。
シンプルな演出だからこそ、演者たちの一挙一動に集中できる、一瞬たりとも目が離せない。
ちなみに、幕が上がってすぐ、53歳の「私」が話始めるシーンなのだが、今回は、客席後方扉から「私」は登場し、下手側の通路を通り舞台に上がる。
よって、通路側の席にいた私は、一瞬、手を伸ばしたら届く距離で木村達成をみることができた。
確か2021年の時は、幕が上がると「私」は舞台中央で板付きだったように思う。
ラストがジワジワきた
今回の木村達成(私役)×前田公輝(彼役)は、序盤、中盤よりも、ラストでじわじわ来た。
それまで自信満々に振舞っていた「彼」がみっともなく取り乱し始め、逆にそれまで挙動不審でおどおどしていた「私」が不気味な笑みを見せ始める。
二人の刑が「99年」と決まって、「99年~♪」と歌う「私」の木村達成の笑顔は本当に怖かった。
サイコパスはお前だったのか!とガツンとやられる瞬間。
そしてそこまでして(人生棒に振ってまで)、「彼」を手に入れたかったんだ、ということに、ショックでわけが分からなくなる瞬間でもあった。
なぜだ、なぜなんだ・・・きっと、私には死ぬまでわかるまい。
この作品は、演者によって全然印象が変わってくるに違いない作品で、だからこそ全組見たいし、過去に見逃した分もなんで見逃していたんだろう!と悔やまれる。
静かな狂気「スリル・ミー」、決して愉快な物語でもないのに、見終わった後は一種の心地よさが残るのも不思議。
なんでだろう?
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運営者情報
姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...
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作品情報
キャストなど
キャスト
尾上松也(私役)×廣瀬友祐(彼役)
木村達成(私役)×前田公輝(彼役)
松岡広大(私役)×山崎大輝(彼役)
ピアニスト:
朴勝哲/落合崇史/篠塚祐伴
演出・音楽・振付等
原作・音楽・脚本:Stephen Dolginoff
翻訳・訳詞:松田直行
演出:栗山民也
音楽監督:落合崇史
美術:伊藤雅子
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
衣裳:前田文子
ヘアメイク:鎌田直樹
振付:田井中智子
歌唱指導:伊藤和美
演出助手:坪井彰宏、野田麻衣
舞台監督:松井啓悟、田中伸幸
主催・企画制作:ホリプロ