2023年上演

【2023年】実力派クリエイターたちのパワー結集『ラグタイム』

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人種差別、移民問題・・・私たち日本人には、あまり馴染みがないテーマ。

だからこそ、見終わった後に真っ先に出てきた感想は、素晴らしい作品だったが、この作品を定番として上演するのは難しいのではないか、ということ。

とはいえ、実力派クリエイターのパワーが結集したような良質な作品だった。

なお、今回はすべての大人のプリンシパルキャストがシングルキャスト。

子役は、3役(リトルボーイ、リトルガール、リトルコールハウス)ダブルキャストだが、全キャストを鑑賞。

観劇メモ

会場や観劇をした日など。

演目名

ミュージカル『ラグタイム』

会場

日生劇場

観劇日

2023/9/11(Mon) マチネ
2023/9/18(Mon) マチネ
2023/9/24(Sun) マチネ

1996年初演から27年後に日本初演

Wikipediaによると、当作品は初演が1996年のトロント、その後1998年にブロードウェイ、2003年にイギリス・ウエストエンドで上演されている。

初演から27年たった2023年、ようやく日本で初演、というのはどういうことを意味するのか?

それはほぼ単一民族国家の日本にとって扱うのが難しいテーマだし、そもそも同じ肌の色をした役者たちに、見た目が異なる異人種を演じ分けさせることが難しい。そして観客にとっても理解するのが難しいからなのかな、と思った。

・・・でも、インターネットが普及し、個人が受け取れる情報量が20年前と比べると遥かに増えた現在、他国の出来事・事象について知見を持つ観客も増えてきたし、つまりは受け入れる土壌ができたから、いま、日本初演、ということなんだろうか?

舞台では、白人、黒人、移民、がそれぞれ物語を進めていく、アンサンブルキャストたちは人種間を早替えで行き来しながら演じていく。

黒人を演じるキャストたちは、少し濃い目の肌色の舞台化粧をしていたが、あえて肌の色をおもいっきり黒く塗らなかった理由は、特定の人種への配慮なのだろう。

その代わり、白人たちは全身白い衣装、黒人たちは原色を基調としたカラフルな衣装、移民たちはくすんだグレーの衣装を身に着けることで、観客への理解を促している。

この衣装による演出には、なるほど!と思わされた。

重いテーマ、でも軽快なメロディ

決して愉快なストーリーではない。

しかし、舞台全体を流れるのは、軽快で明るいメロディ、と、ポジティブな歌詞だ。

私は19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで流行した、ラグタイム、とかいう音楽のことはよく知らないのだが、印象としては軽快で明るい。

舞台となった20世紀初頭から100年以上たった今も、差別や迫害はゼロにはなっていないが、ストーリーはすべて「希望」に満ちている印象しか受けなかった。

だから、一見胸糞が悪くなるような差別や暴力といったテーマを扱っているにもかかわらず、見終わった後にはすがすがしい気分になるのだろう。

プリンシパルキャストがことごとくドンピシャ!

石丸幹二と井上芳雄と安蘭けいが共演する、と聞いて、興奮した舞台愛好家は多いだろう。

私もそのうちの一人だ。

石丸幹二が移民のターテ、井上芳雄が黒人のコールハウス、安蘭けいが裕福な白人のマザーだ。

ちなみに、ターテ(石丸)×マザー(安蘭)と、マザー(安蘭)×コールハウス(井上)のからみはあるのだが、ストーリー上、ターテ(石丸)とコールハウス(井上)のからみがない!

これは残念だった。

夢の共演だったのにまさかからみがないとは!!!

スター級の3人の役者すべて、群像劇の1パーツとなり、どれかが突出して目立つことはなく、全体としてうまくハーモニーしていたのも、素晴らしい点だった。

今回初見となった遥海のパワフルだが繊細な歌声、不器用な夫であり父がこれ以上もなくはまる川口竜也、恵まれた環境に生まれながら何か足りないと苦悩するヤンガーブラザーの東啓介、ととにかくみんな演技も歌も素晴らしい。(東君、歌うまくなってるよね?今回ちょっと驚いた)

また、歴史上実在する人物エマ・ゴールドマンを演じた土井ケイトは、肖像画のエマ・ゴールドマンにそっくり。

いかにもインテリアナーキストといった色気のない服装も、朴訥とした話し方も、すべてが完璧。

ちなみに、舞台に立つからには必ず舞台化粧をしているとは思うのだが、客席から見るとなんとスッピンに見えるのだ。

いかにもお化粧っ気のないアナーキスト、という雰囲気にあふれていた。

そして、これまた実在した女優イヴリン・ネズビットの綺咲愛里は、エマと反対にとにかく愛くるしくて可愛い、私も髪の毛カールしたくなった(ショートだけど)。

まさに天使の顔をした魔性の女。

実際、彼女のせいでとんでもない残忍な殺人事件が起きているんだよね。

それを「私、被害者よ」と能天気な歌で歌いあげる、まあ、そうなのかもしれないけど・・・。

ハリー・フーディーニの舘形比呂一は、名前は知っていたのだが、実は見たのは初めて。

ハリー・フーディーニは成功した元移民だが、この物語の中では、白人でもない黒人でもない移民でもない、というアクセントのような存在だった。

畠中洋は、ヘンリー・フォードとグランドファーザー、と、あとはよく目を凝らすといろんなシーンにさりげなく登場していた。

全然異なる2役を、何の違和感もなくサラッと演じ分けるのはさすが。

おそらくミュージカルを見慣れない人が見たら、同じ役者がやっているとは気づかないだろう。

私にとって、ブッカー・T・ワシントンのEXILE NESMITHも初見。

EXILEのことはよく知らないので、これまでどのような活動をしてきたのかわからないのだが、安定した歌唱力、魅力的な声、そして青いスーツがばっちり決まってカッコよかった。

成功した黒人のインフルエンサー的な立ち位置の人物としての説得力も十分、出番は多くないのに、ものすごく存在感があった。

子役ではリトルガールに「マチルダ」の嘉村咲良がキャスティングされていた。

残念ながら「マチルダ」のように、たくさんしゃべりもしなければ、歌もほとんど歌わない。

しかし、天才嘉村咲良は、表情やそのたたずまいですべての表現をする。

貧しくて苦しい時の表情、病に倒れて死にそうな表情、暴力に涙する顔、リトルボーイに興味を持って目をキラキラさせる表情、裕福になってからの無邪気で天使のような笑顔・・・全部素晴らしい。

あらためて、すごい子役!と感服せざるを得なかった。

ちなみに、リトルボーイが1幕から何回かつぶやいている「大公さんに危ないって言って」という警告、サラエボで暗殺されたオーストリア皇太子フェルディナント大公のことを言っていた、と最後にハリー・フーディーニが解説するのだが、最後の最後まで、なぜリトルボーイがそんな予言みたいなことを言うのか、よくわからなかった。

リトルボーイには予知能力があったってことなんだろうけれど、この作品で、この少年にこの予言をさせるのは一体なぜ?

個人的に刺さったポイント

今回は安蘭けい演じるマザーがとにかく刺さりまくった。

中産階級の婦人として何不自由ない暮らし、夫には「養ってもらって幸せ」と感謝している。

それでも「本当にこれでいいのかしら?」という戸惑いがあり、その揺れが歌に乗る。

あの時代のあの階級の女性は、きっと結婚する以外の道はなかっただろう、でも時代の変化を感じ取っているからこそ、「これでいいの?」という疑問が出てきたのだろう。

この時代の流れを鋭く悟った賢い女性は、旧態依然とした夫とは徐々に溝が深まってくる。

夫は夫で、彼女を敬愛し何よりも大切にしているからこそ、そのすれ違いがなんだか悲しい。

2幕後半では、彼女は心の中で完全に夫に見切りをつけているのがわかる。

一方、夫は夫で、家庭の危機を感じてなんとかしようとしているからやるせない。

すれ違う「二隻のボート」みたいだ、いやそれ作品違うし!と心の中で突っ込みを入れながら、私は鑑賞していた。

ちなみに、マザーはターテと知り合い、お互い惹かれていく。

マザーは、夫が亡くなり1年喪に服した後、ターテの求愛を受けて再婚することになるのだが、夫が存命だったら、ターテとの関係はどうなっていたんだろう?という疑問が残った。

敬虔なクリスチャンとして、「良い友人」という関係を保つのだろうか?

たぶんそうだろうな。

その他・劇場のことやチケットデザインなど

日生劇場は好きな劇場の一つ。

カフェからのこんな眺めも好き。

2023/9/24マチネ、幕間、カフェにて

2023/9/11は平日のマチネだったので、XC列(前から3列目)で見れた!

コンビニ発券ではないチケットは、ビジュアルもきれいなので劇場に行くまでもテンション上がる!

2023/9/11マチネのチケット

私が書いています
運営者情報

姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...

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作品情報

キャストなど

キャスト

ターテ:石丸幹二
コールハウス・ウォーカー・Jr.:井上芳雄
マザー:安蘭けい
サラ:遥海
ファーザー:川口竜也
ヤンガーブラザー:東 啓介
エマ・ゴールドマン:土井ケイト
イヴリン・ネズビット:綺咲愛里
ハリー・フーディーニ:舘形比呂一
ヘンリー・フォード&グランドファーザー:畠中 洋
ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITH

新川將人、塚本 直、木暮真一郎、井上一馬、井上真由子、尾関晃輔、小西のりゆき、斎藤准一郎、Sarry、中嶋紗希、原田真絢、般若愛実、藤咲みどり、古川隼大、水島 渓、水野貴以、山野靖博

リトルボーイ:(Wキャスト)大槻英翔/村山董絃
リトルガール:(Wキャスト)生田志守葉/嘉村咲良
リトルコールハウス:(Wキャスト)平山正剛/船橋碧士

演出・音楽・振付等

脚本:テレンス・マクナリー
歌詞:リン・アレンズ
音楽:スティーヴン・フラハティ
翻訳:小田島恒志
訳詞:竜 真知子
演出:藤田俊太郎

振付:エイマン・フォーリー
音楽監督:江草啓太
美術:松井るみ
照明:勝柴次朗
衣裳:前田文子
音響:大野美由紀
ヘアメイク:柴崎尚子
映像:横山 翼
擬闘:栗原直樹
指揮:田邉賀一
歌唱指導:YUKA
演出助手:守屋由貴/寺崎秀臣
舞台監督:倉科史典
プロデューサー:小嶋麻倫子/塚田淳一/江尻礼次朗
宣伝美術:植田麗子(TOHOマーケティング)
宣伝写真:渞 忠之

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