2022年上演

【2022年】豪華キャスト勢揃いの帝国劇場 ミュージカル『ガイズ&ドールズ』

2022_ガイズ&ドールズ

https://lasfloresrojas.com

主役級のキャストがズラリ並んだ『ガイズ&ドールズ』。

ミュージカルを知らない人でも、「ああ、それ聴いたことある」という有名なナンバーもある至極愉快なこの作品、チケット入手困難が予想されたが(実際入手困難だったが)、見逃すわけにはいかなかった。

また、驚くことに全キャストが「シングルキャスト」なのである。

役者さんの体力は大丈夫なのだろうか?

この作品もご多分に漏れず、関係者にコロナ感染者がでたとかで、一部休演があったが、幸いなことに、私は4枚確保できていたチケットのうち3回は観劇することができた。

観劇メモ

会場や観劇をした日など。

演目名

ガイズ&ドールズ

会場

帝国劇場

観劇日

2022/6/18(Sat)ソワレ
2022/6/23(Thr)マチネ
2022/6/25(Sat)ソワレ

最初のナンバーは田代万里生の溌溂とした歌声で

最初のナンバーはナイスリー演じる田代万里生の、夏の避暑地の岩清水みたいな澄み切ったテノールで始まる。

あー、もう、この声聞いただけで帰ってもいいわ、と思うレベル。

キャストが発表されたときには、スカイでもネイサンでもない役に、なぜ田代万里生がキャスティングされているのか?と思ったのだが、そうだった、ナイスリー役には重要なソロがいくつかあったのだった。

確かに、脇を引き締めるはずのソロパートの歌唱力がしょぼいと、残念ミュージカルになってしまう。

だから、安定した歌唱力の田代万里生なのか、と納得。

私が最初に彼を見たのが「ブラッド・ブラザーズ(2009)」だったが、それ以来、彼は安定した歌唱力を見せている。

いままで、彼が音を外したり声がかすれた、というのを、私は一度も観た(というか聴いた)ことがない。

本当にすごい人だな、と思う。

ちなみにナイスリー(田代万里生)とベニー(竹内將人)が、ビルの屋上から歌うシーンもノリノリで楽しい。

ネイサン&アデレード

最初にネイサン役の浦井健治が出てきた瞬間に感じたこと・・・

あれ?ふっくらしている。

前回、『笑う男』(2022年2月)で見たときには、ここまでふっくらしていなかったような・・・

この役のために太った?とも考えたのだが、どうだろう?

この作品のネイサンは、仕事はできるが婚約者にはメロメロなキュートなギャンブラーだ。

婚約者のアデレードのセリフにも「あの頬っぺたの可愛い彼!」というセリフがあるぐらいなので、ふっくらした可愛いネイサンもありだ。

もともと歌が上手な人でないが、独特の陰りのある声が魅力的。

激怒する婚約者アデレードを前にして、「何度でも言うさ、アイラブユー」とひざまずいて歌い上げるシーンは、非常に心地よい。

・・・っていうか、可愛い、超絶キュート。

そりゃ、アデレードも毎回許すよね、という感じ。

さて、アデレード役、これは本当に要求されているスキルが高い役だなぁ、と思った。

そしてそれを軽やかに演じきった望海風斗に脱帽。

ショービズダンサーとしてキレの良いダンスシーンを見せながら、難曲も歌い上げねばならない。

ガッツリ踊って、かつ重要なソロパートもある、という点では、この役は、ウエストサイドストーリーのアニタと似ているなと感じた。

背も高く華やかな容姿は、ド派手な装いにも映えていて美しい。

そう、女子的には、アデレードのド派手なファッションも見ていて楽しいポイントだ。

スカイ&サラ

明日海りおのツンとした透明感のある雰囲気は、お堅い宗教関係者であるサラのキャラクターによく合っていた。

それにしても、とにかく細い、華奢だ、とため息が出た。

そして、その華奢な身体も、美人だが堅物女子、という演技に一役買っている。

さて、観る前から「芳雄さんのスカイってどんな感じなんだろう?」と楽しみで仕方なかった井上芳雄、個人的には、サラをたぶらかそうとしてインチキペテン師を演じている時のスカイがとても好きである。

あまりにも見え透いた手口でも、悪びれずにケロッとされると、女って結構コロっといってしまう(※個人の感想です)ものよね、と観ていて愉快だった。

井上芳雄のスカイは、クールぶっているのに実は最初からサラに骨抜きにされているような「恋するスカイ」だった。

自ら恋の沼地にはまってみました的なスカイに見えたので、「けっこういいやつじゃん」という印象なのである。

全然ワルじゃない。(笑)

スカイとサラのデュエットも、「いや、最初からこうなるってわかってました!ハイ待ってました!」という感じに聴けた。

Luck be a lady tonight♪

2幕のハイライト、超有名なナンバー「Luck Be a Lady」。

見事に盛り上がった。

井上芳雄の囁くような静かなソロから始まって、最後は男性(全員ギャンブラー!)の群舞と男声のコーラスで締める。

客電の消えた座席から「あー、今日も劇場にきてよかった」と思えるのは、いつもこんな瞬間である。

この男性の群舞、個人的にはものすごく好きである。

なぜなんだろう?と考えたことがあるが、よくわからない。

「女性が一人も混じらない男性の集団」には、独特の空気感があるように感じる。

ちなみに、このナンバーは、囁くように静かに始まってラストはスカイがシャウトして照明が落ちる。

そういうところが、なんとなくバレエのボレロ(ラヴェル)を連想させる。

おしゃれでモダンなアンサンブルのダンスシーン

ミュージカルには、アンサンブルのダンスシーンに目が離せない演目は多い。

『ガイズ&ドールズ』も、そのうちの一つ。

1回目はメインキャストに注目し、2回目の観劇で脇役に注目し、3回目ではアンサンブルに注目していた。

ニューヨークの街中のシーンでは、3人娘がカラフルなポワントシューズ(トゥーシューズ)をはいて軽やかに街中を駆け抜けていき、靴磨き少年(本田大河)がアクロバティックな動きをしたかと思うと、何事もなかったかのように客の靴を磨きだす。

さりげなくて、軽やかな楽曲とともに、おしゃれな空気がそこには流れる。

そのほかにも、ホットボックス(キャバレー?)における女性だけのダンスショー、男性群舞のLuck Be a Ladyなどが圧巻だ。

アンサンブルの中でも、松田未莉亜がその容姿の愛らしさで目を引いた。

ニューヨークの街中では高級ブティックの店員、夜はホットボックスのタバコ売り、いやぁ、ダブルワーク大変だねぇ・・・と思っていたら、そのあと航空会社に転職したらしくCAになりサラとスカイをもてなし、飛行機がハバナについた後ではCAさんも休暇ってことで、ディスコで踊り狂う女性になっていた。

こんな風に一人のアンサンブルの役替わりを追っていくのも楽しい。

歌わないカズさん(石井一孝)!

フラニガン警部補の石井一孝が、得意のコメディテイストな演技で要所要所を締めていたが、実はフラニガンは歌わない役なのである。

なんとももったいない。

・・・と思ったら、こんな動画を発見!

【必見】ブラニガン警部補が歌う『ガイズ&ドールズ』Luck Be A Lady / 石井一孝 Kazutaka Ishii / ラック・ビー・ア・レデイ / Guys & Dolls

2016年3月に東京・ヤクルトホールで開催された「石井一孝 Swing in the Midnight Blue 発売記念コンサート」のワンシーンとのこと。

ストーリーはやはり古い

最後に。

『ガイズ&ドールズ』は、楽曲や振り付けの素晴らしさ、ミュージカルとしての見せ場の多さという点で、100点満点のエンターテイメントであることは全く否定できないが、どうしてもストーリーだけは古さを感じてしまった。

1950年代に作られた作品だからしかたないか、とも思ったが、一方で時代を経ても全く古くならない作品もあるだろう。

ミンクのコートのシーン

ホットボックスのアデレードおよび踊り子たちが歌い踊る"Take Back your mink"というナンバー。

ミンクを小道具に踊るのだが、ミンクかぁ・・・と思ってしまった。

かつてはミンクは富の象徴だったかもしれないが、今や毛皮なんて「生きたまま動物の皮をはいで作る残酷なもの」であることが認知され、忌避するものとして常識になりつつあるし、ニューヨークなんかでは、毛皮など着ていようものなら、過激派(?)の動物愛護団体からペンキをかけられることもある、なんて聞く。

つまり、毛皮のシーンは、すでにもう時代に合っていないのではないか、という気がした。

女性の幸せが限定的に描かれているように感じられる点

特に、「古いなぁ」と感じてしまったのが、アデレードがネイサンと結婚できずにずっと未婚であることを嘆くミュージカルナンバーだ。

未婚の女性は情緒が不安定になる・・・という歌詞には、申し訳ないが、違和感しか感じなかった。

「アデレード」という一人の女性が、愛する男性と結婚したいのに結婚できなくて精神が不安定になるというのならわかるのだが、このミュージカルナンバーでは、医師から「未婚の女性は情緒が不安定になる」と言われた、と歌い上げているのだ。

「いや、それ違うだろ!」とツッコミを入れざるを得なかった。

ラストは、サラとスカイは結婚した「直後」という設定で、アデレードとネイサンは「これから」結婚式を挙げるところ、という浮かれたシーンのハッピーエンドで終わる。

もちろん結婚はおめでたいことに違いないのだが、女性の幸せはすなわち結婚、というふうにみえてしまうのだ。(もちろんそんなことは誰も言ってないが)

そういう意味で、2022年はギリギリOKだが、今後は上演が少し難しくなるのでは?という気がした。

ジェンダー、とくに女性における役割の固定がなんとなく垣間見える点が気になるのだ。

そう感じたのは私だけだろうか?

1950年代のミュージカルだから当時はこんな価値観だったのよ、と割り切って見せるのか、はたまた時代錯誤だからと上演されなくなるのか?

いかに?

私が書いています
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姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...

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作品情報

キャストなど

キャスト

スカイ・マスターソン:井上芳雄
サラ・ブラウン:明日海りお
ネイサン・デトロイト:浦井健治
ミス・アデレイド:望海風斗
ナイスリー・ナイスリー・ジョンソン:田代万里生
ベニー・サウスストリート:竹内將人
ラスティー・チャーリー:木内健人
ハリー・ザ・ホース:友石竜也
ビッグ・ジューリ:瀬下尚人
カートライト将軍:未沙のえる
アーヴァイド・アバーナシー:林 アキラ
フラニガン警部:石井一孝

青山航士、荒川湧太、井上真由子、岡田治己、伽藍 琳
輝生かなで、工藤広夢、後藤裕磨、酒井 航、塩川ちひろ
篠本りの、シュート・チェン、鈴木万祐子、富田亜希、中嶋紗希
永松 樹、焙煎功一、橋田 康、福永悠二、藤森蓮華
本田大河、Macoto、松島 蘭、松田未莉亜、吉田彩美
米澤賢人、茶谷健太

演出・音楽・振付等

原作:デイモン・ラニヨン
音楽・作詞:フランク・レッサー
脚本:ジョー・スワリングエイブ・バロウズ
演出:マイケル・アーデン
振付:エイマン・フォーリー
装置:デイン・ラフリー
訳詞・日本語台本:植田景子(宝塚歌劇団)

最終更新日 2022年6月30日

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