山崎豊子の『大地の子』は、かつてその圧倒的な長大さに屈し、読書を途中で放り出してしまった一冊である。
当時、私は大学生だった。
一方、テレビドラマ版(1995年)もまた、当時は視聴を避けた。
現代のようにオンデマンドで好きな時に見られる時代ではなく、録画という手段もまだ煩雑だった頃の話だ。
連続ドラマを追うことは、数ヶ月にわたって毎週同じ曜日の同じ時間に身を拘束されることを意味していた。
ひとたび見始めれば、続きが気になってしまうのは分かっている。
しかし、毎週その時間を確保し続ける自信がなかった私は、惹かれながらも、最初から「見ない」という選択をしたのである。
そして、2026年、ようやく舞台版という形で触れることができた。
Contents
観劇メモ
会場や観劇をした日など。
演目名
『大地の子』
会場
明治座
観劇日
2026/3/7(Sat)マチネ
2026/3/15(Sun)マチネ
歴史の重みと、役者たちの生命力
日頃はミュージカルを専門に観劇している私だが、今回は井上芳雄が主人公を務めるということで迷わずチケットを手にした。
もちろん、作品そのものへの関心も強かった。
隣国でありながら実はよく知らない中国の歴史、その激動の中に置かれた「残留孤児」の運命。
劇中で触れられた日中国交正常化が、実は自分の生まれた年であったことにあらためて気づき、その歴史が「意外と最近のことなのだ」と改めて認識させられる時間となった。
プリンシパル陣は全員が素晴らしかったが、特に印象に残ったのは、ストーリーテラーも兼ねる張玉花(あつ子)役の奈緒だ。
過酷な状況下でみじめな境遇にありながら、内側から溢れ出すような生命力がその「目」に宿っていた。
あるいは、その力強さは彼女の「声」から感じ取ったものだったのかもしれない。
一方で、一つ疑問に感じたのは、陸徳志(ルートウチ)の妻役がプリンシパル扱いではない点だ。
演じた増子倭文江は、いかにも中国の田舎に生きる清貧なインテリの妻という佇まいを見事に体現しており、非常に深い印象を残した。
ストレートプレイの枠を超えた「歌」の錯覚
主演の井上芳雄が陸一心(ルーイーシン)を演じているのを観ていると、台詞を喋っているはずなのに、なぜか彼が歌っているかのような錯覚に陥ることが何度もあった。
以前、何かの記事で彼が「この作品をミュージカルにしてもいいのではないか。レ・ミゼラブルのような作品になるのでは?」と語っていたのを読んだが、実際に舞台を目の当たりにして私も強く同感した。
もちろん、今回のストレートプレイとしての完成度は極めて高い。
しかし、宿命に翻弄される人々の叫びや祈りは、メロディに乗せて表現されるべき壮大なエネルギーを秘めている。
今回の観劇を通じて、文字や映像で避けてきた『大地の子』という大きな山を、ようやく一つ登り切ったような感覚がある。
この感動を胸に、いつかこの物語が歌声と共に劇場に響き渡る日を想像せずにはいられない。
子役のキャストボード
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運営者情報
姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...
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作品情報
キャストなど
キャスト
陸一心(ルーイーシン)(松本勝男)役:井上芳雄
張玉花(ツァンユウホワ)(あつ子)役:奈緒
江月梅(チアンユエメイ)役:上白石萌歌
陸徳志(ルートウチ)役:山西 惇
松本耕次役:益岡 徹
袁力本(ユワンリーベン)役:飯田洋輔
黄書海(ホワンシュウハイ)役:浅野雅博
増子倭文江
山﨑 薫
山下裕子
みや なおこ
石田圭祐
櫻井章喜
木津誠之
武岡淳一
薄平広樹/岡本敏明/加藤大祐/越塚 学
西原やすあき/咲花莉帆/清水優譲/武市佳久
田嶋佳子/常住富大/角田萌果/内藤裕志
松尾 樹/松村朋子/丸川敬之
<子役>
松坂岳樹/本宮在真/藤田緋万里/森 葵
石井 輝(2月26日、27日、3月4日、9日、11日、16日 18:00公演のみ出演)
演出・音楽・振付等
原作:山崎豊子
『 大地の子 』(文春文庫)
脚本:マキノノゾミ
演出:栗山民也
美術:松井るみ
照明:服部 基/おざわ あつし
音楽:国広和毅
音響:山本浩一
映像:上田大樹
衣裳:前田文子
ヘアメイク:佐藤裕子
ステージング:田井中智子
演出助手:戸塚 萌
舞台監督:加藤 高
宣伝美術:柳沼博雅
宣伝写真:渞 忠之
宣伝映像:鎌田浩平
企画協力:文藝春秋
製作:明治座・東宝


