2026年上演

【2026年】笑いながら、胸が締め付けられて。『クワイエットルームにようこそ』

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松尾スズキによる小説が原作で、2005年に刊行。

2007年に松尾が自ら脚本・監督を手掛け、映画化した、という作品。

私は小説も映画も全く知らない状態で観劇した。

この作品、好きか嫌いかと言われたら、「好き」だ。

ただ、このシュールな世界観を、あえて歌と踊りで表現する『ミュージカル』という手法が、正解だったのかどうか・・・観終わった後も少し考え込んでしまった。

観劇メモ

会場や観劇をした日など。

演目名

『クワイエットルームにようこそ』

会場

THEATER MILANO-Za

観劇日

2026/1/12(Mon)ソワレ
2026/1/31(Sat)ソワレ

ミュージカルというよりはストレートプレイに近い肌感覚

本作はミュージカルとして上演されているが、実際に客席で受けた印象はストレートプレイを見ている感覚に極めて近かった。

すべての楽曲は、あくまで物語のアクセントとして機能しているように感じられる。

ミュージカル特有の「歌で感情を爆発させる」というよりは、松尾スズキ特有の言葉の応酬を音楽が繋いでいるといった構成であり、純粋なミュージカルを期待すると少し肩透かしを食らうかもしれない。

確かに、歌ってはいる。

歌っているし、踊っているんだけれど、なんでミュージカルを見ている感覚にはならないんだろう?!という不思議。

それは、もしかすると楽曲の雰囲気がバラエティに富んでいたからかもしれない。

例えば、幕が上がってすぐ、ヒロインが歌い出したのはラップのようなナンバー。彼女の頭の中の忙しなさや、溢れ出す焦燥感がそのまま音になったような勢いがあった。 一方で、彼女の彼氏が歌うのは、どこか懐かしくて気の抜けたフォークソング風。かと思えば、病棟の仲間たちが声を揃えるナンバーは、昭和歌謡のよう……。

「次はどんな曲が来るんだろう?」とワクワクする反面、ジャンルがバラバラすぎて、一言では到底とらえきれなかったのだ。

実力派の贅沢すぎる起用と松下優也の驚くべき変貌

キャスト陣に目を向けると、咲妃みゆと昆夏美という歌唱力の高い二人の女優を起用しているが、なんとなくオーバースペック?という気がしてしまった。(松尾さんごめんなさい!)

特に昆夏美のソロナンバーは少なく感じられ、もしかすると咲妃みゆのアンダースタディを兼ねているのではないかと邪推してしまうほど贅沢な配置であった。

そして、時を経ても美しいりょうと、可愛い看護師に化けた桜井玲香の姿もあった。

さらに、オペラ風の歌唱を披露する笠松はるまでいるではないか!

また、松下優也が演じた「ぺっとりとしたロン毛のオタク風業界人」の役作りには圧倒された。これまでの彼のイメージを覆すような怪演であり、役者としての引き出しの多さにはただただ脱帽するばかりである。

詰め込まれた情報量に圧倒される

作品全体としては間違いなく面白いのだが、一つの舞台に要素を詰め込みすぎているという印象を受けてしまった。

閉鎖病棟という特殊な環境下で展開される濃密な人間ドラマと毒のある笑いが、整理される間もなく次々と押し寄せてくるからだ。

先にも少し触れたが、音楽も一つのトーンで統一されておらず、コミカルなものからポップス、サスペンス風、そしてどこか懐かしいフォーク調まで、実に多彩なジャンルが混在している。

その中でもとりわけ心に刺さったのが、「回廊」や「ラズルダズル」という言葉が印象的な楽曲だ。(曲名がわからない!)

出口のない迷路に迷い込み、どうしようもない絶望の中にいる、といった内容の歌詞だったと思うのだが、すごく悲しい。

本作はコミカルなエンターテインメントとして昇華されてはいるものの、その根底にあるのは非常に重く苦しいテーマだ。原作や映画の予備知識がない状態で挑むと、その密度の濃さに振り落とされないよう、かなりの集中力を要するだろう。

その重層的な構造を象徴するのが、終盤で栗田(笠松はる)がボソッとつぶやく「みんな悲しいんだよ」といった趣旨のセリフだ。この一言が、それまでの狂騒を塗りつぶすほど強烈な悲しみを伴って迫ってくる。

刺激的ではあるが、観劇後には心地よい疲労感とともに、あえてこのシュールな世界観をミュージカルという手法で描く正解は何だったのか。もう少し情報を削ぎ落とした形でも観てみたかったという、贅沢な不満が残る作品であった。

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姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...

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作品情報

キャストなど

キャスト

咲妃みゆ、松下優也、昆夏美、皆川猿時、桜井玲香、
池津祥子、宍戸美和公、近藤公園、笠松はる、
りょう、秋山菜津子

香月彩里、田川景一、エリザベス・マリー、中根百合香、
永石千尋、原梓、藍実成、感音、古賀雄大、
羽衣*、芹犬*、等々力静香*、中野亜美*、吉田ヤギ*
(*コクーン アクターズ スタジオ第1期生)

<ミュージシャン>吉田 能、熊谷太輔、中條日菜子、福岡丈明、藤野“デジ”俊雄、山下綾香

演出・音楽・振付等

作・演出:松尾スズキ
音楽:宮川彬良
振付:スズキ拓朗

最終更新日 2026年2月1日

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