2025年上演

【2025年】善意はどこまで無垢か『ダディ・ロング・レッグズ』

https://lasfloresrojas.com

私は2022年から約3年ぶりに見る作品。

なお、ジャーヴィス役の井上芳雄が、初日を終えてから体調を崩し、その間この代役は佐野眞介がつとめた。(それも見てみたかった!)

ちなみに、公演のWebサイトのどこを見ても、アンダースタディ(代役)についての情報はないが、今回はジャーヴィス役のアンダースタディとして佐野眞介がアサインされていた、ということなのだろう。

キャストについても、我々観客に知らされていない舞台裏ってたくさんあるんだな、と思った次第。

なお、今回ジルーシャはWキャストだが、私は、坂本真綾で観劇。(上白石萌音は見逃し)

観劇メモ

会場や観劇をした日など。

演目名

『ダディ・ロング・レッグズ』

会場

シアタークリエ

観劇日

2025/12/22(Mon)ソワレ

2012年日本初演から13年が経過

この作品、Wikipediaで調べてみると、翻訳家の今井麻緒子氏(ジョン・ケアードの妻)が、新作ミュージカルの題材を探していたジョンケアードに原作であるDaddy-Long-Legsを紹介したことをきっかけに生まれたとある。

日本では2012年初演で、2013、2014、2017、2020、2022年、そして今年と続くが、ジャーヴィス役は井上芳雄が連続して演じている。

私はお恥ずかしながら、前回の2022年が初回だった。

それまで、グランドミュージカルを好んでいたので、この作品のような2人ミュージカル、には目を向けていなかったからかもしれない。。。

ジルーシャという女の子

初演から2022年を除いてジルーシャを演じてきた坂本真綾を、実は今回初めて見た。

ミュージカル俳優とは少し異なる歌い方、という印象はあるが、音を「響かせる」というよりも「置いていく」ような、丁寧な音の扱い方と、柔らかく包むような声色が印象的だった。

声そのものに、ジルーシャの内面がそのまま乗っているように感じられる。

唯一取れたチケット

今回、チケット争奪戦の結果、1枚しか取れなかったため、Wキャストの上白石萌音との見比べができなかったのは正直残念だ。

ただ、その分、坂本真綾のジルーシャを「比較」ではなく、「一人の人物」として受け取ることができたようにも思う。

彼女のジルーシャは、孤児院育ちであることを過剰に背負っていない。

屈託がなく、明るく、どこか育ちの良さすら感じさせる。

その健やかさは、観ていて心地よい反面、ふとした瞬間に小さな違和感も呼び起こす。

いくら生まれつき知性が高いとはいえ、孤児院育ちがこんなにも品よく育つものだろうか?という違和感はぬぐえなかった。

これは、彼女の演技というよりは、脚本、いや物語への違和感だ。

慈善とは何だろう

しばしの休演で佐野眞介にその役を譲ったのち、舞台に戻ってきた井上芳雄。本調子ではなさそうな瞬間もあったが、それでも相変わらず説得力のある演技だった。

彼の演じるジャーヴィスは、終始「善人」である。

ジルーシャの未来を静かに、しかし確実に後押しする存在として描かれている。その姿はあまりに誠実で、観客は疑う余地を与えられない。

だが、この作品を観ていて私が引っかかったのは、まさにその「疑いようのなさ」だった。

ジャーヴィスの行為は慈善であり、支援であり、紛れもなくジルーシャの人生を好転させている。にもかかわらず、そこには常に非対称な関係が横たわっている。

名を明かさない支援者、選択権を持つ側と、与えられる側。その構図は最後まで揺らぐことがない。

ジルーシャが健やかで、聡明で、感謝深いからこそ、この物語はロマンとして成立する。

もし彼女がもっと屈折していたら、もっと怒りを抱えていたら、この関係性は一気に別の顔を見せていただろう。

善意はどこまで無垢か

『ダディ・ロング・レッグズ』は、慈善を批判する作品ではない。

むしろ、善意が誰かの人生を確かに救いうることを、誠実に描いている。

それでも、観終わったあとに残るのは、やさしさへの感動だけではなかった。

善意が成立するために必要とされる条件、受け取る側に求められる「ふるまい」、そして観客が安心して涙を流すための前提がある。

それらを考え始めると、この作品は単なる心温まるロマンスでは終わらなくなる。

軽やかで、音楽は美しく、二人芝居として完成度も高い。

それでいて、ふと立ち止まらせる何かが残った。

『ダディ・ロング・レッグズ』は、善意が美しいままでいられる限界を、静かにこちらへ差し出してくる作品なのかもしれない。

その他

街はすっかりクリスマスになっていた。

私が書いています
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姉本トモコ(@tomoko1572) 東京都出身の舞台芸術愛好家。 高校時代(1980年代!)から、セーラ服のまま劇場に出入りする青春時代を送る。 好きな場所は日比谷界隈、一番好きな劇場は帝国劇場。 ...

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作品情報

キャストなど

キャスト

ジャーヴィス・ペンドルトン:井上芳雄
ジルーシャ・アボット(Wキャスト):坂本真綾/上白石萌音

演出・音楽・振付等

脚本・演出:ジョン・ケアード

音楽・作詞・編曲:ポール・ゴードン
編曲:ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞:今井麻緒子
装置・衣裳:ディヴィッド・ファーリー

音楽監督・歌唱指導:山口琇也
照明:中川隆一
音響:本間俊哉
ヘアメイク:宮内宏明
装置・衣裳助手:岩田ゆう子

舞台監督:宇佐美雅人 / 佐光 望
演出助手:末永千寿子

制作:藤田千賀子
アシスタントプロデューサー:田中景子
プロデューサー:小嶋麻倫子

協力:あしなが育英会

製作:東宝

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